価値は物語でつく——聖遺物・ブランド・記念メダル
中世ヨーロッパの聖遺物、老舗ブランドのバッグ、記念メダル、トレーディングカード。物そのものの価値を大きく超える値段は、どんな物語と時間に支えられているのかを考えます。
この記事の要点
- 物の値段の多くは、材料ではなく「みんなが信じる物語」でついている
- 物語は、長い時間をかけて多くの人に共有されるほど強くなる
- 価値を見るときは「誰が信じているか」「どれだけ続いているか」「供給を誰が決めるか」を問う
聖遺物という究極の例
中世のヨーロッパでは、聖人の遺骨や遺品、十字架の木片とされるものが「聖遺物」として大切にされた。聖遺物を納めた教会には巡礼者が集まり、人の流れと寄進が町を豊かにした。聖遺物を飾るために、豪華な容器や建物、絵画が作られた。
それが本物かどうかを科学的に確かめるのは、多くの場合難しい。それでも、何百年ものあいだ多くの人が大切にしてきたという事実そのものが、その品の重みを支えてきた。本物かどうかより、どれだけ長く信じられてきたかが、価値の中心にある。
そう考えると、芸術さえもその物語を飾るために生まれた面がある。物語が先にあり、その物語が人とお金と芸術を集める。価値の仕組みとして、これほど強いものはなかなかない。
現代の「物語の値段」
| もの | 材料の価値 | 値段を支える物語 |
|---|---|---|
| 老舗ブランドのバッグ | 革と金具 | 百年以上続く職人の歴史、限られた供給、持つ人のイメージ |
| 記念メダル・記念コイン | 金属の重さ×純度 | 記念する出来事、図柄、発行枚数(見方) |
| トレーディングカード | 紙とインク | キャラクターへの愛着、発行元の希少性の約束、鑑定 |
| 通貨・暗号資産 | 紙、またはデータ | 国の信用、仕組みへの信頼、使う人の多さ |
| 金 | 金属そのもの | 数千年にわたって価値があると信じられてきた歴史 |
金だけは、材料そのものにも価値があり、その上に数千年分の物語がのっている。だから強い。ほかのものは、材料の価値が小さいぶん、物語が値段のほとんどを占める。
物語の強さを見分ける3つの問い
- 誰が信じているか:一部の熱心な人だけか、世代や国を超えて多くの人か
- どれだけ続いているか:最近生まれた物語か、何十年、何百年と続いてきた物語か
- 供給を誰が決めるか:作り手が好きなだけ増やせるのか、数が限られているのか
今取得したばかりの品より、長く信仰されてきた品のほうが重い。同じように、昨日作られたブームより、長く続くブランドやシリーズのほうが価値は残りやすい。トレカでの考え方は雑司ヶ谷トレカ研究所「価値は文脈でつく」でも書いた。
物語に払う、ということ
物語に値段がつくのは、悪いことではない。人は物語に価値を感じる生き物で、好きな物語を持つことは豊かさの一つだ。注意したいのは、物語の部分を「資産」だと思い込むことだ。物語は、信じる人がいなくなれば消える。値段の中で、材料の価値と物語の価値がそれぞれどれくらいかを意識しておくと、買いすぎや投機の失敗を避けやすくなる。
AIへの熱狂も、ある意味では多くの人が信じる物語で値段がついている面がある。どの物語がいつまで続くのか——それを自分の頭で考えることが、お金を使うときの基本だと思う。